はじめに
こんにちは。 看護実習や学校の課題で避けて通れないのが**「紙上事例(ペーパーペイシェント)」**の展開ですよね。
特に周術期の事例は、身体的な管理だけでなく、心理的なケアや退院指導まで考えることが多くて大変です。
今回は、典型的な**「乳がん(周術期)の患者さん」を想定した模擬事例を作ってみました。 教科書によくあるパターンですが、「アセスメントを難しくさせるポイント(ひっかけ)」**をいくつか盛り込んでいます。
※著作権に配慮して、学習用にオリジナルの設定で作成したものです。 実習前の事前学習や、看護過程の練習にぜひ使ってみてください。
【模擬事例】進行性乳がんで手術を受けるA氏(30代女性)
1. 患者基本情報
- 氏名: A氏
- 年齢・性別: 35歳 女性
- 家族構成: 夫(38歳)、長女(3歳・幼稚園年少)。3人暮らし。
- 実父母は車で1時間の距離、義父母は車で10分の距離に在住。
- 実母(60歳)に5年前の乳がん既往あり(温存手術済み、再発なし)。
- 職業: 専業主婦(週3日、午前中のみパート勤務)。
- 性格: 真面目で責任感が強い。
- 身体特徴: 身長156cm、体重65kg(やや肥満傾向)。左利き。
- 生活習慣: 毎日缶ビール1本。元喫煙者(現在は禁煙)。趣味は温泉巡り。
2. 入院までの経過
1年前の人間ドックで要精密検査の指摘を受けたが、育児と家事の多忙さを理由に受診を先延ばしにしていた。1ヶ月前、左乳房に明確な「しこり」を自覚し受診。 検査の結果、左浸潤性乳管がん(T2N1M0、Stage IIB)、HER2陰性と診断された。
【治療方針】 術前に外来にてEC療法(化学療法)を実施後、手術目的で入院。 医師からは、「腫瘍が複数あり広範囲であること、リンパ節転移があることから、乳房温存は困難。左乳房切除術(全摘)+左腋窩リンパ節郭清が必要」と説明された。
【患者の心理】 当初、A氏は「検診に行かなかったことを深く後悔している。でも、まだ娘が小さいので、一緒にお風呂に入った時に傷跡を見せて怖がらせたくない。温泉も好きだし、胸を切りたくない」と強く葛藤していた。 その後、家族と話し合い、「再発リスクを下げて家族と長く過ごすこと」を優先し、手術に同意した。
3. 術後の経過(術後3日目)
- 手術: 全身麻酔下にて、左乳房切除術+左腋窩リンパ節郭清術を施行。
- 身体状況: 体温36.4℃。ドレーン排液50mL(淡々血性)。
- 症状: 左上肢(患側)に重だるさと痺れを訴える。鎮痛薬を使用し、看護師の促しで運動を実施中。
- ADL: 左利きであるが、左側を手術しているため、食事や更衣などの動作に不便を感じている。また、無意識に左手を使ってしまい痛むことがある。
- 精神状況: 表情が暗い。「覚悟はしていたけれど、実際に胸がなくなってしまったのを見ると辛い。母も乳がんだったし、娘にも遺伝してしまうのではないかと考えると可哀想で……」と涙ぐむ場面が見られる。
この事例の学習課題(看護計画のヒント)
この事例を使って看護過程を展開する場合、以下のポイントを押さえて計画を立ててみましょう。
- 解剖と病態の理解
- Stage IIBとはどの程度の進行度か?(TNM分類)
- なぜ「乳房温存」ではなく「全摘+リンパ節郭清」が必要だったのか?
- 術後急性期の観察とケア
- ドレーン排液の性状・量の変化(異常の早期発見)。
- リンパ節郭清後の合併症(リンパ浮腫、知覚異常)の兆候観察。
- セルフケア支援(リハビリ・日常生活)
- **「利き手が患側」**である場合の日常生活援助(食事、整容、排泄)はどうするか?
- 退院後の生活指導(重い物を持たない、感染予防)。
- 心理・社会的支援
- ボディイメージの変容(乳房喪失)へのケア。「娘と入浴したい」「温泉に行きたい」という個別的なニーズに対するアピアランスケアの提案。
- 「受診遅れへの後悔」や「遺伝への不安」に対する傾聴とサポート。
【解説】ここがアセスメントのポイント!
この事例、一見普通の乳がんの事例に見えますが、いくつか**「看護師として気づくべきポイント」**が隠されています。
①「左利き」で「左側の手術」であること
ここが一番のミソです。通常、点滴ルートや血圧測定は患側(手術した側)を避けますが、今回は**「患側=利き手」**です。
- 利き手が使えないストレスは想像以上に大きいです。
- お箸を持つ、スマホを操作する、ナースコールを押す……これらが不自由になります。
- ついつい癖で左手を使ってしまい、患部に負荷をかけてしまうリスクもあります。 「右側にサイドテーブルを置く」「食事用具を工夫する」といった、具体的で気の利いた看護計画が立てられるかがカギになります。
②「30代の子育て世代」であること
35歳で3歳の娘さんがいる場合、「自分の病気のこと」と同じくらい、あるいはそれ以上に**「母親としての役割」を気にされます。 「抱っこができない」「お風呂で傷を見せられない」といった悩みは、この患者さんにとってQOL(生活の質)を大きく左右する問題です。 単に「傷がきれいですね」と言うだけでなく、「退院後、どうやって娘さんと関わっていくか」**を一緒に考える姿勢が必要です。
③遺伝への不安
実母も乳がんであることから、遺伝性乳がん(HBOC)を心配されています。 看護師だけで解決できる問題ではありませんが、不安を受け止め、必要に応じて医師や遺伝カウンセラーにつなぐ視点も持っておきましょう。
おわりに
紙上事例は文字情報だけなのでイメージしにくいですが、**「もし自分がこの患者さんの担当だったら、何をしてあげられるかな?」**と想像すると、良い看護計画が見えてきます。
実習や課題の参考にしていただければ嬉しいです!

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